翻訳のヒント[バックナンバー]

2020年5月 翻訳のヒント(英訳) - ambiguous な英語表現

 今回は、ambiguous な訳文の例を挙げたいと思います。翻訳者は自覚せずに、全く意図しなかった意味に解釈されうる文章を書いてしまうことがあるものです。

 今回の例は、部品の洗浄や湖沼の水質浄化、工場の排水処理など、近年様々な応用が検討されている、ファインバブル(微小気泡)を発生させる装置及び方法の発明に関するものです。この発明では、多孔質のエレメントに液体を通すことで、液体中にファインバブルを発生させます。

 問題の原和文はあとで記載することとして、まず、翻訳者から上がってきた訳文を読んでみましょう。

(元訳)“ …… the average bubble diameter remained almost the same before and after the element.”


 この英文はどういうことを言いたいのでしょうか?2つ解釈の可能性が考えられます。

 一つは、「(流体が)エレメントを通過する前の(流体中のバブルの)平均バブル径とエレメントを通過した後の平均バブル径とはほとんど同じだった」、即ち、エレメントを通過することによる影響がなかった、という解釈(A)。

 もう一つは「エレメントの入口の前において平均バブル径の変化はほとんどなく、また、出口の後ろでも変化がほとんどなかった」、即ち、エレメントの前でも後でも、(例えば外的攪乱があっても)それぞれ平均径はほとんど変化しなかった、という解釈(B)。

 このように2つ以上の解釈が可能な表現を多義的 (”ambiguous”) であるといいます。多義的な表現は日本語にも英語にも存在しますが、読者を誤解させることにつながりますので避けるべきです。

 さて、原和文はどうだったのかというと、次の通りでした。

(原和文)「…… エレメントの通過前と通過後とでは気泡径の平均値はほとんど同じであった。」

 この原文には「通過」という言葉がありますので、流体がエレメントを通過する前後を比較している、と読む解釈(A)が自然だと思われますが、解釈(B)をとることも可能な文章です。明細書を通して読みますと、やはり解釈(A)を意図していましたので、より誤解のない訳を考えてみていただきたいと思います。

 以下は参考訳です。

“…… the average bubble diameter remained almost the same before and after the liquid passed through the element.”




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