翻訳のヒント[バックナンバー]

2016年10月 翻訳のヒント (英訳・和訳) - 概念 vs. 具体物

 ある用語(英語)が、概念を表す不可算名詞として記載されているのか、具体物を表す可算名詞として記載されているのかを注意していないと不適切な和訳をしてしまうことがあります。また、この区別を意識していると、英訳の場合に単複を含め曖昧さの無い適切な使い方ができるはずです。化学分野でよく出てくる実例を紹介します。(尚、「複数形をとらない名詞、複数形だと意味が変わる名詞」に関しては当社翻訳のヒント2009年9月もご参考に)。

1.content

 物質の含有量(濃度の場合もあります)を "content" と訳すことはしばしばあります。含水量、金属量、アルコール分など、普通 "water content"、"metal content"、"alcohol content" と訳されます。この場合の content概念としての「含有量」です。"the content of water of the composition"(但しthe amount of water in the compositionは可)のような表現は不自然で、"the water content of the composition" のような使い方が適切です。一方、加算名詞としての "contents"実体のある「内容物」を表し、通常このように複数形で使われます。例えばリアクターの内容物なら "the contents of the reactor" となります。IT分野で「コンテンツ」とは、媒体(メディア)によって記録・伝送される一塊の情報を意味します。「含有量」と「内容物」(概念と具体物)の違いがお解りいただけると思います。

2.measurement

 "measurement" は「測定する」という動詞から派生した「測定」という概念を意味します。しかし、辞書にも記載されるように、具体的な「測定値」という意味もあります。衣類のサイズの各箇所の何センチなどはこの例です。従って、" measurement was performed"(概念としてのmeasurement)や "the measurements were averaged"(測定値としてのmeasurements)などと使い分けるべきです。また、そのように使い分けられた英文の和訳に際しては適切な訳とすべく注意が必要です。

3.conversion

 概念としては化学的な「変換」「転化」の意味です。この場合、"conversion of alcohol to ketone" のように使われます。また、化学分野では具体的パラメーターとしての「転化率」はしばしば "conversion" と表現されます。この場合、"a conversion of 80%" などの表現は当業者には馴染みがあり誤解されないのですが、具体的に転化率の数値であることを明確にしたい場合には工夫が要ります。英訳の際、単に "conversion" ではなく一歩踏み込んで " a percent conversion of 80%" や "a conversion rate of 80%" と表現することも一案です。

 この種の例は化学分野以外にも色々あります。英語の名詞に関して「概念」なのか「実体」なのかを意識することは、英訳・和訳の品質向上につながることでしょう。


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