翻訳のヒント[バックナンバー]

2015年11月 明細書英訳(機械分野)-「かしめる」の訳語(1)

 機械分野では、耳慣れない言葉に戸惑うこともあるかと思います。今回は、「かしめ」「かしめる」という語を取り上げます。

 「かしめる」とは、機械工学・電気工学分野では、圧力を加えることでもたらされる塑性変形を利用して、2つの部材を強固に密着ないし接合することですが、適用対象などによって、英語表現も異なります。

 この語をインターネットの各種技術用語辞典で検索すると、最初に出てくる英語は "caulk", "caulking" のようです。

 もう少し調べると、"crimp" や "swage" もでてくるかもしれません。

 しかし、これらの英語は実際、どのような状況におけるどのような操作に対して使用されるのでしょうか?皆さんが英訳しようとしている明細書の文言に該当するのはどれでしょうか?

 これについて今月と再来月の2回に分けて考察してみます。

1.接合する2つの部材のほかに第3の部材を利用し、この第3の部材に対して加圧操作を行なうもの。つまり、接合部にはめ込まれた金具や爪を工具で叩いたり締めたりすることで接合部を固く固定します。身の回りでは次の2つを良く見かけます。

1-a. 鳩目:
 例えば、2枚のフェルトを重ねて鳩目金具を打ち込み、紐などを通すための穴(=鳩目穴)を開ける場合、接合する2部材に相当するのがフェルト、第3の部材にあたるのが鳩目金具です。「鳩目金具をかしめる」という言い方をします。鳩目は英語では"eyelet" ですので、鳩目金具をかしめることは eyeleting といいます。

1-b. リベット:
 ジーンズ等の衣料やバッグに見られる金属鋲です。この場合は、重ね合わせた布地や皮革に穴を開け、そこに第3の部材であるピンやリベット(鋲)を差し込んで少し頭を出しておき、その突出部を叩き潰すことでしっかりと固定します。

 リベットは布地や皮革の接合だけに利用されるものではなく、金属板同士を結合するのによく利用されます。

 英語ではリベットはrivet、リベット打ちはrivetingといいます。

 McGraw-Hill Dictionary of Science and Technical Terms (Fifth Edition)ではrivetを次のように記載しています。

 rivet: A short rod with a head formed on one end; it is inserted through aligned holes in parts to be joined, and the protruding end is pressed or hammered to form a second head.

 riveting: The permanent joining of two or more machine parts or structural members, usually plates, by means of rivets.

2.接合する2つの部材あるいは1つの部材における対面する端部(つまり継ぎ目)に対して第3の材料(合成樹脂などのペースト状のもの)を詰め込んで気密を得るもの。

 これは日本語ではコーキング(英語ではcaulk,caulking)といい、継ぎ目から液や気体が漏れないようにする目的で行われます。

 前出のMcGraw-Hill Dictionary of Science and Technical Terms (Fifth Edition)ではこのように記載されています。

 caulk: Also spelled calk. To make a seam or point airtight, watertight, or steamtight by driving in calking compound, dry pack, lead wool, or other material.

 Merriam-Webster (オンライン版)では次のように記載されています。

 to fill the cracks or holes in (something) with a substance that keeps out water.

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 実は、この「かしめる」という語は弊社のフリーランス応募の方向けの和英試訳(グロープラグの実施例)の中に出てくるのですが、上のいずれの場合にも該当しないことがわかると思います。

 以下、1月号に続きます。


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