翻訳のヒント[バックナンバー]

2013年5月  翻訳のヒント(和訳) - 副詞の訳し方の工夫

 特許明細書は、技術内容の表現の難しさや権利請求の戦略の観点から読みにくいことがあります。このような英文明細書を和訳すると、当然読みにくい和文となってしまいますが、副詞を上手く処理するだけで文章をより読み易くすることができます。今回は"alternatively" と "typically"を例として考えてみます。

(原英文)
  The resin composition of the present invention may be cured by heating. Alternatively, the composition may also be cured by irradiating the composition with UV light.

(副詞を除いた和訳例)
 本発明の樹脂組成物は加熱によって硬化させることができる。・・・・、本組成物はUV光を照射することによっても硬化させることができる。

 さて、上の・・・・に入る副詞の訳の例として、「択一的には」と「代替的には」がよく見受けられます。確かに副詞"alternatively"には「二者択一的」の意味がありますが、上の例の場合、加熱と光照射の二手段のみからいずれか一手段を選ぶという意味合いはないので「択一的には」は不適当です。その点、他の可能性について言及する「代替的には」は意味としては適切です。更にもう一工夫すれば、「代替的」である意味を変えずに、すっきり読み易い表現とする訳語として「或いは」や「また」を使うとよいでしょう。

(原英文)
  According to the present invention, sintering of alumina powder is typically carried out at 1,200?C.

(副詞を除いた和訳例)
 本発明において、アルミナ粉末の焼結は・・・・1200℃で行う。

 この場合、上の・・・・に入る訳の例として「典型的に」がよく見受けられます。「典型的に」とすると、これが模範や基準となる、「型にはまった」というニュアンスがあります。しかし、アルミナは通常この程度の温度で焼結させることを意味していることがわかれば、「典型的に」よりむしろ「通常」と訳すことにより読み易くなります。

 「択一的には」、「代替的には」、「典型的に」はいずれも英和辞書の掲載順位の上位に挙げられていますが、機械的に訳すのではなく、元々の意味をよく考え、等価で自然な言葉を探したいものです。辞書にない訳語を使っても、原文の意図が反映されればよいのです。この他の副詞についても同様ですので、和訳の際に少し工夫してみましょう。

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