翻訳のヒント[バックナンバー]

2012年1月 翻訳のヒント(英訳) 主語は何?

 本年もどうぞ宜しくお願い致します。
 さて、年末年始、何かと忙しい時節ですが、日本語とは便利なもので、大掃除の手順など、主語を気にせずにやる事を順番に言ってしまえば大抵は通じます。その延長で日本語文書は主語を意識しないで書かれることがよくあり、特許明細書(特に化学分野)も例外ではありません。 そのような原文を英訳する場合、主語をきちんと頭に置いておくことが大切です。では、実際の和文原稿に対する英訳でありがちな例を挙げてみます。

例1
(原文)得られた混合物を濾過し、アルコールで洗浄し、乾燥した。
(某さんの英訳)The thus-obtained mixture was filtered, washed with alcohol, and dried.

 この英文の唯一の主語はmixtureであり、アルコールで洗浄された対象も、乾燥された対象も同じ"mixture"ということになります。しかし、通常の操作として、濾液でなくフィルター上に残った固形物を洗浄して乾燥する操作を行うのであれば、washed 以下の主語を新たに置き直す必要があります。次のように改訳します。

(改訳例)
The thus-obtained mixture was filtered, and the residue was washed with alcohol and dried.

例2 (原文)塩化カリウムを水に溶解し50℃に加熱した。
(某さんの英訳)Potassium chloride was dissolved in water and heated at 50℃.

 この英文をそのまま解釈すれば「塩化カリウム」が50℃に加熱されたことを意味しますが、塩化カリウムそのものが加熱されたわけではなく、実際には塩化カリウム溶液が加熱されたはずです。従って、この場合も「溶液」という主語を追加することになります。次のように改訳します。

(改訳例)
Potassium chloride was dissolved in water, and the resultant solution was heated at 50℃.

 上に挙げたような和文は非常によくある例です。特に長文であったりすると、うっかり改訳前のような訳をしていることがあるかと思います。落ち着いて、操作のイメージを持って英訳したいものです。尚、文が重文(S+Vの単位が2つ以上並列している文)となる場合でandで文を結合する際、andの前にカンマを打つと文構造が明確となります。

 また、新たに原文にない主語を補うことがためらわれる場合には、
The thus-obtained mixture was filtered, followed by washing with alcohol and drying. (例1の文の場合)のように", followed by + 動名詞"でつなぐこともできます。
 しかし、これをやり過ぎると自信の無さや手抜き訳の印象を与えますので注意しましょう。

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