翻訳のヒント

2010年8月 動詞 "fill" の使い方について

動詞については自動詞、他動詞の区別は辞書ですぐわかりますが、それだけの知識では足りません。動詞には、「動作や動き」と「それによって変化を受ける対象」が認識され、「もたらされた変化」に重点が置かれるタイプのものがあります。cleanやclear、fillなどがありますが、ここでは例としてfill を挙げてみましょう。

まず "fill" の誤用を取り上げてみます。次の文をどう思いますか?正しいでしょうか?

1) Water is filled in the container.

2) He filled milk in the cup.

日本人は平気でこのように表現しますが、本来、これらの文はそれぞれ次のように書かなければなりません。

1)' The container is filled with water.

2)' He filled the cup with water.

即ち、動詞fillは「対象を空の(或いは不足している)状態から一杯になる状態に変化させていく、言い換えれば器を満たす」という意味の語です。よってfill されるのは常に器の方なのです。勿論、物理的な器でなくてもそれに相当する「人間」や「必要性」という場合もあります。

上の文で、「水」は「空(くう)」や「欠落しているもの」ではありませんから、"fill" の対象物にはなれません。

最初の1)、2)の文型で同様のことを表現したいなら違う動詞を使わなければなりません。例えば次のような表現にすることが可能です。

1)" Water is poured into the container.
   Water is added to the container.

2)" He poured milk into the cup.

先月扱ったcleanや screen も同じタイプの動詞ですので、「動作」によって「その動作を受ける対象」が「どういう結果になったか」を記述する語である、という観点から見直すと理解が深まると思われます。


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