翻訳のヒント

2010年7月 動詞と目的語の組み合わせ、正しいですか?

日本語ではなんとなく理解できてしまう表現を、そのままの発想で英訳すると適切でないことがあります。 幾つか例を挙げてみます。

動詞 clean (purify)

排ガスや排水から汚染物質を除去して清浄化する際に「排ガスの浄化方法」等の表現が使われますが、英訳する場合

"a method for cleaning exhaust gas"

と訳せば、動詞cleanに対して清浄化される対象であるexhaust gas が目的語となっていて適切です。  しかし、特許明細書には「排ガス中の窒素酸化物の浄化方法」等の表現もよく見かけます。言いたい内容は理解できますが、これを機械的に

"a method for cleaning nitrogen oxide in exhaust gas"

と英訳すると誤解を招きます。nitrogen oxide は除去される対象であって、動詞 cleanの目的語にはならないからです。正しくは、

"a method for removing nitrogen oxide from exhaust gas"

となります。もし動詞 clean を採用するのであれば、

"a method for cleaning exhaust gas through removal of nitrogen oxide"

という訳が可能です。

動詞 screen

多くの候補から目的とするものを選択する「スクリーニング」を行う際、「目的薬のスクリーニング方法」等の表現が使われます。英訳された明細書(米国特許明細書等)で

"a method for screening a target drug"

という表現をみかけますが異和感があります。動詞 screen の目的語はスクリーン(ふるい)にかけられる候補群ですので正しくは、目的薬を選択すると置き換えて、

"a method for selecting a target drug through screening"

(この場合screeningは名詞)と訳されます。  或いは

"a screening method for a target drug "

も良いでしょう。

実際、日本人が英語で書いた論文や特許明細書では上のような表現を目にすることが多いのですが、「公開されている」、「特許として発行されている」からといって翻訳が「正しい」とは限りませんので注意が必要です。


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