翻訳のヒント

2009年5月 無水

今月は化学分野のお話です。

化学分野の明細書では、「無水物」、「無水酢酸」、「無水硫酸マグネシウム」、「無水エタノール」等、「無水」がつく化合物名がよく出てきます。 共立出版社の「化学大辞典」には[1]無水塩の場合:anhydrous、[2]酸無水物の場合:anhydride、とでていますが、 化学系の大卒者でもきちんと英訳できないケースが多々見られます。もう一度復習しましょう。

「無水」という語は、化学分野では次の3通りの意味で使われています。

  1. 脱水縮合したということ、即ち縮合反応時に水分子(H2O)が抜けたこと。

    この場合の例としては、次のものが挙げられます:

    • 無水酢酸(=酢酸2分子が脱水縮合してできたもの)
      英訳はacetic anhydride

      なお、酢酸(CH3COOH)は融点が16.7℃(メルクインデックスによる)で、純度が高いと冬季には凍り、食酢の主成分でもあります。
      これに対し無水酢酸は融点が-73℃(メルクインデックスによる)と、酢酸とは全く異なり、水酸基やアミンと反応しやすい強力な試薬で化学合成の際に用いられます(食酢の成分ではありません)。

    • 無水フタル酸(フタル酸中の2個の-COOHが脱水縮合したもの)
      英訳はphthalic anhydride

  2. 結晶水がないこと。

    この場合の例としては、次のものが挙げられます:

    • 無水炭酸ナトリウム(結晶水を含むNa2CO3・H2Oから結晶水のH2OがとれてできたNa2CO3、英語ではsodium carbonate anhydrate又はanhydrous sodium carbonate
    • 無水硫酸ナトリウム(結晶水を含むNa2SO4・10H2O、即ち硫酸ナトリウム十水和物(別名芒硝、結晶芒硝)から結晶水の10H2OがとれてできたNa2SO4)、
      英語ではsodium sulfate anhydrate又はanhydrous sodium sulfate、更に医薬品の分野ではdried sodium sulfate とも表記されます。

      なお無水硫酸ナトリウムは日本語でも乾燥硫酸ナトリウム、無水芒硝、無水硫酸ソーダ等、いろいろな言い方があります。無水硫酸ナトリウムは無色または白色の結晶あるいは粉末で、水に溶けやすく吸湿性大。局方外医薬品として入浴剤の成分などに、あるいは試薬や食品添加物としての用途があります。芒硝にはGlauber's saltという英語もあります。

  3. 水分量が非常に低いこと。

    有機溶媒には、蒸留プロセスや脱水剤によって含水量を非常に低下させたものがあります。
    この場合の例としては、次のものが挙げられます:

    • 無水エタノール、無水テトラヒドロフラン
      英訳はそれぞれanhydrous ethanol、anhydrous tetrahydrofuranとなります。

      なおこの場合はabsolutedryを用いてabsolute ethanol等と表現することもあります。


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