翻訳のヒント[バックナンバー]

2022年12月 翻訳のヒント(和訳)- 「訳語で変わる訳文の雰囲気(3)」

 4月、6月の「翻訳のヒント」に続き、「訳語で変わる訳文の雰囲気」の続編です。今回取り上げるのは動詞 "determine" です。但し、今回は「<人が>決意する、決心する」という用法は除き、技術用語としての使い方に絞ることにします。

 determine の最も一般的な訳は「決定する」ですので、頑なにそう訳している方もいるようです。そもそも「決定」とは、determine のラテン語源の terminare(限界を定める)から誘導される意味の一つです。しかし、この語源を基にすれば、技術内容に適して、その分野で認知されている色々なヴァリエーション(辞書の記載と完全一致する必要はありません)が考えられるはずです。それを利用すれば、当該分野の雰囲気を持った訳文により近づくはずです。さて、次の各英文で、皆さんでしたら determine をどのように訳すでしょうか?

1.The volume of the sample is determined.
2.The amount of Fe ions present in the solution was (quantitatively) determined.
3.The Fe ion concentration of the solution was determined.
4.The type of the antibody trapped by the immobilized bed was determined.
5.The reaction mechanism has not yet been precisely determined.
6.The nucleotide sequence of the fragment X is determined.

 動詞 determine の対象に合った訳語を考えましょう。1では、「限界を定める」という原意を測定するに変化すれば適訳となります。2では、「物の量を決める」ことから定量したと訳すのが技術用語として普通です。一方、3のように「性質である濃度を決める」場合には、決定したとなります。4のように抗体の5種のタイプである IgG、IgM、IgA、IgD、IgE のどれであるかを判別するケースならば、判別したが読みやすいです。5の場合には、究明」や「解明と訳すと自然な訳文となります。6は、「配列決定」という技術用語からわかるように決定するが普通で、最も適切です。

 仮に上の英文全てにおいて determine を「決定する」と訳したとしても、当業者や審査官は理解してくれます。しかし、いかにも機械的に言葉を当てはめた印象が否めません。これを改善するには、辞書の記載に単純に頼るのではなく、語源を意識した上で当該技術にフィットする訳を考えることです。このプロセス一つで、更に読みやすい(即ち、当該分野の雰囲気のある)訳文にできると思います。少し難儀かもしれませんが、翻訳者は瞬時的な「一語一訳」より「一語多訳」の懐の深さを持つことが大切です。


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