翻訳のヒント[バックナンバー]

2021年4月 翻訳のヒント(英訳) - 「~することができる」に注意

 明細書の「発明の詳細な説明」の翻訳で、実施形態を幅広く説明するための「~することができる」や「~でも良い」の表現に遭遇したら、特許翻訳者は助動詞 may を使った表現をまず考えます。しかし、条件反射のごとく may を使うと誤訳となる恐れがあります。一例を紹介します。

(原文)本発明の樹脂組成物はポリマー(A)とポリマー(B)を任意の組成比で含むことができる。


 この原文を、よく考えることなく反射的に訳した英文を見てください。

 The resin composition of the present invention may contain polymer (A) and polymer (B) at any compositional ratio.

 上の情報に限って言えば、訳文は文法的に正しく、文言上の抜けもありません。しかし実際に原文のクレーム(及び明細書のクレーム相当箇所)を見ると、本発明組成物がポリマー(A)とポリマー(B)を必須成分として含み、それらの組成比は特に限定されていないことが記載されていました。
 お気づきと思いますが、上の英文では may contain の目的語がポリマー(A)、(B)となるため、「ポリマー自体を含むことができる(含まなくてもよい)」と解釈されて当然です。こうなると、クレームの記載と矛盾が生じます。従って上の訳文は内容的には誤訳と言えます。
 これを回避するためには、まず原文を文言どおりでなく、明細書全体に鑑みて次のように正しく解釈し直す必要があります。

(解釈後の文)本発明の樹脂組成物はポリマー(A)とポリマー(B)を含むが、それらの組成比は任意の値を取り得る。


 こう解釈すれば、

 The resin composition of the present invention contains polymer (A) and polymer (B) at any compositional ratio.

 In the resin composition of the present invention, the compositional ratio of polymer (A) to polymer (B) may be modified to any value.

 The resin composition of the present invention, containing polymer (A) and polymer (B), may have any polymer compositional ratio.

等の英文に訳せ、このような英文であれば明細書の記載としてクレームと矛盾しません。

 原文と訳文が文言上一致していれば、チェックの段階で見逃されることもありますので、まずは翻訳者が慎重に明細書を読み込むことが大切です。



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