翻訳のヒント[バックナンバー]

2018年4月 翻訳のヒント(英訳)- 副詞節の位置

 新年度第一回目の「翻訳のヒント」ですが、「読みやすい翻訳」、「わかりやすい翻訳」とするためのコツを考えさせられる例をご紹介いたしましょう。それは副詞節の位置です。
 明細書の翻訳では、常に前後の文との関係の中で、誤解を与えない構文・表現を考えることが大切です。今回は 「~の場合(のとき)、XXはYYである」の構造の文を例にとってみます。ポイントは when で始まる副詞節の位置です。

(原文)本発明のマンガン酸化合物は非常に高い比表面積を有する。この化合物は高いガス吸着能を有するため、食品保存容器中で用いられた場合、食品の酸化を効果的に防ぐことができる。


 この場合、下線部の英訳としていろいろな訳が考えられますが、例えば、次の(a), (b)を比較してみましょう。

(a) When used in a food storage container, the compound can effectively prevent oxidation of food, because the compound has high gas adsorption performance.

(b) The compound, having high gas adsorption performance, can effectively prevent oxidation of food when used in a food storage container.


 (a)も(b)も、この1文だけを見ればそれぞれ英文として問題はありません。しかし前の文とのつながりを考えてみるとどうでしょうか?直前の一文(和文参照)はこの化合物が非常に高い比表面積を有すると記載しています。比表面積が大であるならば、ガス吸着能が高いことは自然に予想できますので、ガス吸着能への言及がすぐ出てくる(b)の方が負担なく読めると思われます。

 また(a)では副詞節が文頭と文末に置かれていることで文の焦点がぼやけていますが、これについてはまた別の機会に取り上げたいと思います。

 翻訳者は、自分自身が翻訳対象の話をよく理解しているので、当該副詞節の重要度や位置についてはあまり気にしないかもしれません。しかし読者の立場で(即ち、自身を客観視して)もう一度訳文を読んでみると何かに気が付くことがあり、その結果より親切な訳文とすることができると思います。



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