翻訳のヒント[バックナンバー]

2018年2月 翻訳のヒント(英訳)-セラミック製造における「加熱」

 セラミック製品は原料(又はその成型体)を高温で加熱することにより得られますが、目的に応じで加熱方式が異なり、色々な用語を目にすることと思います。英訳する際、これら用語の技術的な意味を理解しておくと当業者や審査官にとって理解しやすい訳文となりますので、動詞として整理してご紹介します。

1.煆(か)焼(calcine)

 「焼くことにより灰にする」という意味ですが、 "calc" の綴りでわかるように歴史的に炭酸カルシウム(CaCO3)を焼いて生石灰(CaO)を得る操作を表していました。技術範囲が拡大され、各種金属の硝酸塩、炭酸塩、塩化物など一次原料を焼くことにより対応するセラミックの酸化物原料とすることも意味します。「仮焼成」や「仮焼」とも言われます。


2.脱脂(debinder)(弊社「翻訳のヒント2016年7月」もご参照ください)

 セラミック原料粉体を樹脂バインダーで成形した際、成型体の樹脂分を飛ばすために予備加熱する操作を意味します。


3.焼成(fire)

 予備加熱を経た(又は経ない)原料をより高温で加熱して原料粒子同士の結合物を生成させ、所望の性質を持つセラミック(焼結)体とする加熱操作です。fire からは「火」が連想されますが、レンガや陶器をオーブンで加熱して固くするという意味があります(各種辞書参照)。


4.ベーク(bake)

 料理以外にも、「加熱により対象物を固める」という意味があります。また "bake" は "fire" よりもずっと低温で行われる操作です。「ベーク」よりは予備的な「プリベーク」として使われることが多いかもしれません。


 尚、「焼結」は、金属やセラミックの粉末を高温(但し融点より低い)で加熱したとき粒子間の空隙が減少し粒子同士が緻密に結合して焼き固まる現象をいいます。(英語では sintering )。"Sinter" は名詞として "the product of a sintering operation" を指す他、動詞としてもつかわれますが、主に「行為」というより「現象」や「状態」を表す場合に使われ、"sintered product"、"oxides are sintered" などが一例です。

 実際の和文明細書にあたってみると、必ずしも上のような使い分けがされていないこともあります。そのような場合、原文の記載を尊重しつつ、更に技術的側面から訳語を選択してみてください。また、技術内容が明確に開示されていないとき、或いは煆焼と脱脂を同時に行う場合などには、heat、preliminarily heat など、より一般的な動詞を使うこともできます。



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